医科の医療法人が活用できる補助金・助成金は?IT・業務効率化・医療機関向け支援制度を解説
こんにちは。スピカ行政書士オフィスの矢口です。
医療法人を運営されている先生から、
「医療法人は補助金を使えないのでしょうか」
「電子カルテや予約管理システムの導入に利用できる制度はありますか」
「医科のクリニックと歯科医院では、補助金の扱いが違うのでしょうか」
といったご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げると、医科の医療法人が活用できる補助金・助成金はあります。
ただし、一般の中小企業を対象とする制度では医療法人が対象外となることがある一方、医療機関向けの支援制度や、賃上げ・職場環境改善を目的とする助成金では対象となる可能性があります。
また、同じ「クリニック」であっても、個人開設か医療法人かによって申請資格が異なる場合があります。
この記事では、医科の医療法人が補助金・助成金を探すときの考え方と、IT導入、業務効率化、職場環境改善などに活用できる可能性がある主な制度についてご説明します。
※本記事は2026年10月23日時点の情報に基づいています。補助金・助成金の対象者、対象経費、募集期間等は年度や公募ごとに変更されます。
「医療法人は補助金を使えない」とは限りません
補助金制度の中には、株式会社、合同会社、個人事業主などを主な対象とし、医療法人を補助対象外としているものがあります。
このため、「医療法人は中小企業ではないから、補助金を利用できない」と思われることがあります。
しかし、医療法人が一律にすべての補助金・助成金から除外されているわけではありません。
制度は、主に次のように分けて考えることができます。
- 中小企業等を対象とする補助金
- 医療機関を対象とする補助金・給付金
- 医療DXに関する導入支援
- 賃上げや職場環境改善に関する助成金
- 都道府県や市区町村が独自に実施する支援制度
大切なのは、制度名だけで判断せず、最新の公募要領や実施要綱で、法人形態、従業員数、事業内容、導入設備、賃金要件などを一つずつ確認することです。
中小企業省力化投資補助金では、医科の医療法人は原則対象外です
人手不足の解消や業務の省力化を目的とする制度として、「中小企業省力化投資補助金(一般型)」があります。
2026年に実施された第7回・第8回公募では、医療法人は原則として補助対象外とされていました。
ただし、歯科医業を営む医療法人については、都道府県知事の認可を受けて設立された医療法人であること、従業員数が300人以下であることなど、所定の要件を満たす場合には申請できる取扱いとなっていました。
そのため、第8回公募までの取扱いでは、次のような違いがありました。
- 医科の医療法人:原則として対象外
- 一定の要件を満たす歯科医療法人:対象となる可能性あり
- 個人で開設している医科・歯科クリニック:個人事業主として対象となる可能性あり
個人開設のクリニックについても、すべての設備や事業が対象になるわけではありません。公的医療保険との重複、設備の使用目的、省力化効果などを含めた個別の確認が必要です。
また、第9回以降も同じ取扱いが続くとは限りません。申請を検討する場合は、該当する公募回の最新の公募要領とFAQを確認する必要があります。
【内部リンク:中小企業省力化投資補助金(一般型)第9回公募予定の記事】
医療機関向けの業務効率化・職場環境改善支援事業があります
厚生労働省では、ICT機器等の導入によって業務効率化や職場環境改善に取り組む医療機関を対象とした支援事業を実施することがあります。
2026年度には、「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」が実施されました。
この事業は、ICT機器等の導入によって業務効率化・職場環境改善を進め、生産性の向上と、効率的で質の高い医療提供体制の構築を図るものです。
ただし、2026年度の同事業は、一定の要件を満たす「病院」が対象であり、一般の無床診療所が一律に申請できる制度ではありませんでした。
制度名だけを見ると、幅広い医療機関が対象になるように思える場合がありますが、実際には次のような細かな条件が設けられます。
- 病院・診療所などの施設区分
- 保険医療機関コードの有無
- 診療報酬請求の実績
- ベースアップ評価料の届出
- 業務効率化計画の作成
- 数値目標の設定
- 委員会等の実施体制
- 導入後のデータ提出や効果検証
医療機関向けの制度であっても、「医療法人であれば利用できる」とは限りません。自院の施設区分や届出状況まで確認することが大切です。
診療所を対象とする支援が実施されることもあります
医療機関向けの支援制度には、病院だけでなく、医科・歯科診療所や訪問看護ステーションを対象として実施されるものもあります。
愛知県では、過去に、ベースアップ評価料を届け出ている病院、医科・歯科診療所、訪問看護ステーションを対象として、生産性向上や職場環境整備に必要な経費を支援する事業が実施されました。
ただし、このような制度は、補正予算や特定年度の政策に基づいて設けられることがあります。
一度実施された制度が、翌年度も同じ名称、対象者、金額で継続されるとは限りません。
募集期間が短い場合もあるため、厚生労働省だけでなく、所在地を管轄する都道府県や市区町村の情報も定期的に確認しておく必要があります。
愛知県内の医療法人であれば、愛知県保健医療局や、所在地を管轄する保健所等から発信される情報も確認しましょう。
電子処方箋など医療DXに関する導入支援
医療機関のIT導入では、一般的な中小企業向け補助金だけでなく、医療DXの整備を目的とする支援制度も確認します。
これまでに、次のようなシステムの導入や改修に関する支援が実施されています。
- オンライン資格確認
- 電子処方箋管理サービス
- 電子カルテ情報共有サービス
- 医療費助成のオンライン資格確認
- 訪問診療等におけるオンライン資格確認
- 医療機関・薬局で使用する関連システムの改修
これらの支援は、単に事務作業を便利にするための一般的なIT補助ではなく、国が進める医療DXの仕組みに対応するための導入支援です。
対象となるシステム、導入期限、申請期限、補助率などは事業ごとに異なります。予算上限に達したため、予定より早く受付が終了することもあります。
電子カルテやレセプトコンピューターを更新する場合も、製品の購入費全体が補助されるとは限りません。対象となる機能や改修部分、指定されたシステム事業者、導入時期などを確認する必要があります。
最新情報は、厚生労働省の「医療DXについて」のページや、「医療機関等向け総合ポータルサイト」で確認できます。
賃上げと設備投資を行う場合は「業務改善助成金」
医療法人が検討できる可能性がある制度の一つに、「業務改善助成金」があります。
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
医療法人であっても、事業場の規模、従業員の賃金、賃上げ額、導入する設備などの要件を満たせば、対象となる可能性があります。
例えば、次のような取組が検討対象になる場合があります。
- 業務時間を短縮するための機器やシステム
- 受付・会計業務を効率化する設備
- スタッフの作業負担を軽減する機器
- 労働能率の向上につながる設備
- 所定の要件を満たすコンサルティング
ただし、導入したい設備があるだけでは申請できません。
事業場内最低賃金の引上げや、従業員数、設備による生産性向上との関係などを確認する必要があります。また、従業員がいない事業場は対象となりません。
業務改善助成金は厚生労働省が所管する雇用関係の助成金です。申請手続きについて専門家へ依頼する場合は、社会保険労務士の業務となるため、必要に応じて社会保険労務士と連携して進めます。
労働時間や休暇制度の改善には「働き方改革推進支援助成金」
医療法人が労働時間の短縮、年次有給休暇の取得促進、労務管理の改善などに取り組む場合は、「働き方改革推進支援助成金」を活用できる可能性があります。
2026年度の労働時間短縮・年休促進支援コースでは、一定の要件を満たす中小企業事業主が対象とされ、病院や診療所等については、常時使用する労働者数が300人以下であることなどが要件として示されています。
対象となる取組には、次のようなものがあります。
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- 労働能率の向上に資する設備・機器の導入
- 外部専門家によるコンサルティング
- 就業規則や労使協定の整備
- 労働者に対する研修や周知
- 人材確保に向けた取組
この助成金も、設備を導入するだけで受給できるものではありません。
時間外労働の上限設定、計画的な年次有給休暇の導入、時間単位年休や特別休暇の導入など、制度が定める成果目標に取り組む必要があります。
こちらも雇用関係の助成金であるため、申請を検討するときは社会保険労務士へ相談します。
医療法人が補助金を探すときの確認ポイント
医療法人が設備投資やIT導入を検討する場合は、最初から一つの補助金だけに絞らず、次の順序で整理すると探しやすくなります。
1.何を改善したいのか
まず、設備やシステムの名称ではなく、現在の課題を整理します。
- 受付や会計の待ち時間を短縮したい
- 電話予約への対応時間を減らしたい
- 問診内容の転記作業を減らしたい
- 医師や看護師の書類作成時間を減らしたい
- スタッフの残業時間を削減したい
- 医療従事者が患者対応に使える時間を増やしたい
課題が明確になると、医療DX、業務効率化、職場環境改善、賃上げなど、どの制度を確認すべきかが見えてきます。
2.法人と施設の区分
同じ医療法人でも、病院、有床診療所、無床診療所では利用できる制度が異なる場合があります。
次の事項を確認します。
- 医療法人か個人開設か
- 病院か診療所か
- 有床か無床か
- 医科か歯科か
- 従業員数
- 保険医療機関コード
- ベースアップ評価料等の届出状況
3.設備導入と賃上げを同時に行うか
設備投資だけを支援する制度もあれば、賃上げや労働時間の改善と組み合わせることが必要な制度もあります。
賃上げを予定している場合は、実施日や賃金額を先に変更してしまうと申請要件を満たせなくなる場合があるため、実施前の確認が重要です。
4.すでに契約・発注していないか
補助金・助成金の多くは、交付決定前に契約、発注、納品、支払いを行った設備を対象外としています。
ただし、対象となる時点は制度によって異なります。
メーカーや販売業者から補助金の案内を受けた場合も、契約書や注文書に署名する前に、公式の公募要領等を確認しましょう。
5.診療報酬等との重複がないか
医療機関の場合、公的医療保険からの診療報酬や、国・自治体のほかの補助制度との重複が問題となることがあります。
同じ設備や同じ経費について、複数の制度から重複して支援を受けることは原則としてできません。
どの経費を、どの制度へ申請するのかを明確に分ける必要があります。
補助金は「設備を決めてから探す」と間に合わないことがあります
医療機関の設備投資では、システム事業者や医療機器メーカーとの商談が先に進み、納品予定日や開院日が決まってから補助金の相談をされることがあります。
しかし、公募期間が短い制度では、次の準備に時間がかかります。
- 対象要件の確認
- 現在の業務フローの整理
- 導入効果の数値化
- 見積書や仕様書の取得
- 資金計画の作成
- 賃金や従業員数の確認
- 電子申請用アカウントの取得
- 行政や事務局への事前照会
さらに、補助金・助成金は、複数案件を同時に進めると、支援者側でも十分な打合せや書類確認の時間を確保できなくなる場合があります。
締切直前のご相談では対応できないことや、次回公募をご案内する場合があります。
「利用できる制度があれば検討したい」という段階から、早めに相談することをおすすめします。
医療法人の設備投資と支援制度を一緒に整理します
スピカ行政書士オフィスでは、医科・歯科の医療法人について、法人の運営や行政手続きだけでなく、設備投資に利用できる可能性がある補助制度の整理も行っています。
また、中小企業診断士の藤田有貴子が運営する「ふじたクリエイトスタジオ」との共同ブランド「IN ALIGNMENT(インアライメント)」として、
- 現在の業務課題の整理
- 設備投資の目的の明確化
- 事業計画・資金計画の検討
- 省力化・業務効率化効果の数値化
- 補助金の対象要件や必要書類の確認
- 採択後を見据えたスケジュール整理
などを支援しています。
雇用関係の助成金については、必要に応じて社会保険労務士と連携します。登記、税務、労務など、ほかの専門分野が関係する場合も、それぞれの専門家と役割を分けて進めます。
「医療法人だから使える補助金はないと思っていた」
「電子カルテや予約システムを更新したい」
「スタッフの負担を減らす設備を導入したい」
「どの制度を確認すればよいのか分からない」
という段階でも構いません。
補助金ありきではなく、先生が実現したい医療と、医院が抱えている課題を伺ったうえで、利用できる可能性がある制度と今後の進め方を整理します。
先生方が患者さまと向き合う時間を増やし、安心して医療を続けられる環境づくりを、制度と事業の両面から支援いたします。
※本記事は、医療法人が利用できる可能性のある補助金・助成金について、一般的な情報をご案内するものです。対象者、対象経費、募集期間、申請方法等は制度や年度によって異なります。実際の申請にあたっては、最新の公募要領、実施要綱、交付規程等をご確認ください。補助金・助成金の採択や支給を保証するものではありません。
よくあるご質問
医療法人は中小企業向け補助金を利用できませんか?
一律に利用できないわけではありません。医療法人を対象外とする制度がある一方、医療法人も申請できる制度があります。制度ごとに法人形態や従業員数などの要件を確認する必要があります。
医科の医療法人は中小企業省力化投資補助金を申請できますか?
第7回・第8回公募では、医科の医療法人は原則として対象外でした。一方、一定の要件を満たす歯科医療法人には例外が設けられていました。今後の公募については、該当回の最新の公募要領をご確認ください。
個人で開設している医科クリニックは対象になりますか?
個人事業主として対象となる可能性があります。ただし、公的医療保険との重複、導入設備の使用目的、対象経費などについて個別の確認が必要です。
電子カルテの導入に使える補助金はありますか?
電子カルテ本体の購入費全体を補助するとは限りませんが、電子処方箋や医療情報共有など、医療DXに対応するためのシステム導入・改修について支援制度が設けられる場合があります。
補助金の相談はいつすればよいですか?
設備を契約・発注する前がおすすめです。制度の確認、見積書の取得、事業計画の作成などに時間がかかるため、公募開始前や設備を検討し始めた段階から準備すると安心です。
参考
厚生労働省「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業について」
厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」

